冬山210

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『夏草』

君の背よりも高い高い緑を掻き分けて掻き分けて君を探した。
それは一種の隠れん坊だった。
けれどもここで君を見つけることができなければ、
もう二度と会ふことはないだらうといふ気持ちに駆られた。

焦っていた。

かんかんと照る夏の太陽の所為か、
いつまでも君が見つからない所為か、
僕の身体は既に水浴びをした犬の様に濡れていた。
汗が目に入る。口に入る。地面に落ちる。

早く君を見つけてこの腕に抱きたい。
ベタベタになって君は怒るかもしれないけれど、
君の体温ならいつだって感じていたい。

そんな思ひを抱きながら夏草を彷徨った。

8/28/2025, 10:56:38 AM