かたいなか

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「夜の海の、砂浜に打ち上がって光るのはホタルイカ、砂浜から海に旅立つのがウミガメ、釣りをするのが夜釣り、あと多分海上花火大会……」
どれも実物見たことねぇし、やったこともねぇ。某所在住物書きは今回配信の題目に、ため息ひとつ吐いて天井を見上げた。
相変わらずのエモネタ。物書きの不得意としている出題傾向であった。
「アレか?夜の海辺で誰かと誰かでも告白させる?俺の投稿スタイル、続き物風の日常ネタと不思議な狐の童話風だから難しいが?」
どうせ次回も手強いお題なんだろうな。こうなったら次回もお盆ネタに逃げようかな。
物書きは再度息を吐き――

――――――

前々回から続いている2019年のお盆のおはなし、そろそろ終わりの第3弾。
雪国の田舎出身という捻くれ者、藤森の里帰りに、「雪国の夏を見てみたい」と、都会育ちの親友宇曽野が、無理矢理くっついてゆきました。

1日目はひたすら青空の下、田園を駆け抜けました。
2日目は北国の「夏の朝」に驚きつつ、貸し切りの自然公園を堪能しました。
田舎クォンティティな農家の恵みたっぷりディナーを胃袋におさめ、デザートはこれまた田舎サイズなスイカが堂々登場。
『買うものではない。ご近所親戚から貰うもの、ご近所親戚に配るものである』
顔色変えず、眉動かさず。土産にしれっと積まれた大玉小玉色違いの、都内価格やハウマッチ。

ポンポンポン、ポンポンポン。
増える食材の種類と量を見つめる宇曽野の目は、完全に、宇宙猫のそれでした。
そんな、宇宙猫的2日目の夜。

「嫁と娘に、とんでもない土産ができた」
「当分スイカとメロンと夏野菜には困らないだろう」
「なんだあの量」
「普通だ」
「『アレ』が『普通』であってたまるか」

「お土産」詰めた段ボール箱を、隣の隣の隣の地区の宅配営業所に持ち込み、先に東京へ送ってもらって、
その帰り、藤森と宇曽野は町をまたいで寄り道して、波立つそこそこの大きさの汽水湖で、階段に腰掛け遠くを見つめておりました。
藤森の故郷と同程度の田舎なそこは、周囲に他人も無く、近くに明かりも見えず、
とぱん、たぱん、どぱん、だぱん。
海同様、浜に寄せる水の形が、暗闇に慣れた目に見えるばかり。
風と波の音だけ届くそこは、ただただ、静かでした。

「真っ暗だ」
宇曽野が近くの石を、波の向こうへ、ポチャン。
ひとつ拾って投げて、言いました。
「人の明かりが、あんなに遠い。星がこんなに多い」

「1人になりたいとき、来ていた場所のひとつさ」
藤森も面白がって石をひとつ、ポチャン。
宇曽野より遠くを目指して投げました。
「公園の夜の吊り橋、父の畑近くの農道、貸し切り状態の遊歩道、『附子山』、それからここ。警察も不審者も来ないから、心置きなくボーっとできる」

「贅沢なことだな」
「贅沢?何も無い場所で時間を無駄にするのが?」
「俺は有意義だと思う」

「はいはいウソ野ジョーク」
「事実だ」

星を見て、石投げ大会をして、何でもない話をして。宇曽野が飽きたらハイおしまい。
近くにコンビニも24時間営業店も無いので、自販機探してジュースを買って、それを飲みながら帰路につく宇曽野と藤森。
ふたりは次の日、3日目の夕方に東京へ帰ります。

8/16/2023, 1:01:47 AM