【ただひとりの君へ】
「彼女はずっと、ずっと笑っていました。
勿論、時には泣いて、時には少しの怒りを見せました。
恒に誰かに憧れを見出だすような…そう、彼女は人の良いところを見つけるのが得意だった。」
私以外に友人の話を聞くものは、この神殿内を満たす透き通った、柔らかい雨の水だけだ。
「もう二度と会えない気がして。
あれから、ずっとその姿を見ないのです。」
彼女はかつて、この神殿内で女神の奇跡を呼び、世から争いを失くし人々に幸福をもたらした。
「さよならも言わずに、彼女は行ってしまった。」
ポロポロと伝う友人の涙はこの湖の中に消えていく。
彼女とは、私も戦友だった。
奇跡の女神を起こした代償は、彼女に向けられる愛だった。その愛が幸福となって世界に降り注いだのだった。
彼女は最後、涙を流しながら何かを祈っていた。
そうして姿を消してしまった。誰も彼女を見ぬ内に。
無数に降り注ぐ雨のような、ただひとりの君へ問う。
己が報われぬと知っていながら誰かを世界を想い続けた君の人生は、幸せなものであったかを。
それとも、それが君の報いであったのか。
1/20/2025, 1:29:51 AM