ヒロ

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「三十七度……」

天気予報が知らせる最高気温にげっそりと呟いた。
今日の仕事の予定は外での聞き込み。ターゲットが贔屓にしている店などを訪ねて歩こうと思っていたが、あちこち動き回るにはしんどい気温の高さに、外へ出るのを躊躇してしまう。
けれども、昨日も同じ理由で予定を変更している。
そう毎日延期にもできないし、依頼の消化は早いに越したことはない。
仕方がない。今日は諦めて外へ出るか。

「うわ~。今日も外は暑いんだね。気を付けて出掛けておいでよ~」
決心してのそりと立ち上がれば、隣に転がる相棒からふわふわとエールを送られた。
こいつは良いよな。外に出ないんだから。
「まったく他人事みたいに言いやがって」
「だってしょうがないじゃ~ん。その分、こっちの仕事はきっちりやるからさ!」
どでかいソファーに寝そべって、ノートパソコンを弄る姿は何とも優雅なものだ。
これから猛暑の中へ繰り出す自分とは対照的に余裕な様に、ついつい嫌みの一つや二つ言いたくなる。
しかしながら、こいつの言う通り。こればっかりは代わりようがないことなので諦めるしかない。
仕事はシビアにこなしたいスタンスの俺だって、流石に吸血鬼のこいつへ、日中の聞き込みに行って来いと言うほど鬼ではない。
人間にとっても連日死にそうな暑さだが、こいつにしてみればちょっとした日差しでさえも命取りだ。
だから、ここは適材適所。
俺が足を使って聞き込みをする間、相棒のこいつには、SNS関連のネット絡みから集められる情報を探るように任せている。
本人曰く、「引きこもりスキルを駆使した情報収集は大得意」だそうで。
実際にそれで、なかなか精度の高い情報を見付けてくるのだから侮れない。
そういう訳で、俺らにとっては利に叶った役割分担なのだ。
お互いに納得した上でのことだから、いくら酷暑でも、炎天下の外へは俺が行くしかないのである。

「なあ。たまには交代とか……」
「じょ、冗談でしょ!」
「だよな」
無理な相談なことは分かっていた。俺らしくない、女々しい冗談でも、何となく言ってみたかっただけだ。
まずいな。弱気に拍車がかかる前に、とっとと出掛けて終わらせて来るとしよう。
「太陽もたまにはお休みすればいいのにね」
「本当にな」
見送る相棒に手を振って、涼しい事務所を後にした。


(2024/08/06 title:047 太陽)

8/7/2024, 3:31:30 AM