見咲影弥

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三日月が空にぷかりと浮かんでいた。全く綺麗だとは思わなかった。月を見て綺麗だという、そんな当たり前にある日本人的感覚はとうの昔に消えた。

私の美意識はさながら三日月のように欠けてしまった。生意気な小娘を殺した、あの夜から。

あの子。

人を見下したような目つき、今でも覚えている。

入社仕立ての新人、ちょっと可愛いからって男どもからチヤホヤされて。お茶汲みも率先してやる健気な子。それに引き換え君は……と白い目を向けられる私。

これまで必死に努力してキャリアを積んできた。男社会の中でも果敢に挑んできた。女だからって馬鹿にしないでよと強気な姿勢でいた。私こそ、新しい時代に求められる人材なのだ。そう信じてやまなかった。

だが、結果は違った。どこへ行っても愛嬌のある子が可愛がられ、褒められる。実力なんて見てもくれない。

私の手柄を横取りしたと訴えれば、彼女は泣く。泣いて男を手玉に取る。狡い女。

狡い、狡い、狡い。

懇親会の帰り。彼女に馴れ馴れしく話しかけた。人通りの少ない道に出て、静寂のうちに投げかける。


「どうして、貴女は狡い女として生きられるの」


彼女は持ち前の愛嬌たっぷりの笑顔を私に向けた。

しかし、その顔はどこか引き攣っているみたいで、とても歪だった。

「使えるものは、なんでも武器にしちゃえばいいのよ」

毒々しい色の唇がぐにゃりと歪んで三日月になる。

「あたしもあんたも同じだよ」

耳元で彼女はそう囁いた。

私は、許せなかった。

許せるわけ、ないじゃない。

衝動に任せて、彼女の首元に両手を回した。

夜空には三日月が、私を嘲笑うかのように輝いていた。


三日月を見る度私は、あの気色の悪い唇を、狡い女の最期を、まざまざと思い起こす。

唇がぐにゃりと歪んだ。

1/9/2024, 10:46:01 AM