◎上手くいかなくたっていい
むごい。
ひと言で言い表すならこれ以上の表現は不可能だと思うほどの光景が眼前に広がる。ヒトだったであろう肉片が建物の下敷きになっているのが見える。
その元凶である巨大な人物は、
まるで玩具で遊ぶようにビルを掴み、破壊行動を繰り返していた。
「無理だよ」
俺の腕を掴む相棒の手が震えている。
「勝てるわけが無いよ」
声も体も震わせて、懸命に俺を引き留めようとする。
「逃げたって、皆……誰も責めないよ。
”皆”はもう──」
いつもと違い及び腰の相棒に苛ついて、
俺は振り返って相棒と額を突き合わせた。
「お前がまだ残ってるだろうがよ」
そう言うと、ハッとして相棒の言葉が止まる。
最後まで付いてきてくれた相棒に苦しそうな顔をさせた自分を恨みながら、足りないてめえの頭をフル回転させて言葉を繋ぐ。
「いつだって……よ」
俺のこの想いをちゃんと伝えられるように。
「お前と一緒にバカやって、笑って、喧嘩して……」
あぁ、こういうのは俺の得意じゃないんだよ。
どっちかっていうとあのガリ勉メガネ野郎の分野だってのに、アイツいつの間にやらいなくなりやがって。
「楽しかったんだ。
お前らの笑顔が、好きだったんだ」
相棒の目から涙がつたう。
「だから、これは俺の独りよがりな八つ当たりだ」
だから、上手くいかなくたっていい。
俺たちの日常を壊したあの図体のでかい野郎に一矢報いたい。
「お前のこと守ってやるなんて言えねえ。それでも……」
俺の気持ちは変わらねえ。
「わかった」
相棒は俺の顔に手を添えた。
「自分も付いていく」
その顔はもう泣いていなかった。
俺が好きな顔だった。
「ははっそれでこそ、俺の相棒だ」
俺たちはまっすぐに
終わりゆく世界を駆け抜ける。
迫りくる時の大逆流〈さかしま〉の音に
気づかないふりをしながら。
8/10/2024, 9:33:22 AM