七瀬奈々

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「イルミネーションを見に行きたい」
 なんて舐め腐ったことを言う人間はここにいない。


 ここは天文部、そして今日は流星群の極大日だ。
 故に今夜は郊外にある広く大きな公園で天体観測をすることになった。遠くに住む人は顧問の車で、近場の人は安全運転の自転車。もちろん参加は任意だが、この寒い時期にしてはそれなりの人数が集まっていた。

『イルミネーションのようなヒトの思惑とカネが絡んだ人工的な夢よりも、自然が織り成す光のショーの方が素敵だ』

『君たちもそう思わないか』

 グループチャットで誰かが発言すれば好意的なリアクションが多く付いた。根っからのオタクかつ思想が極端に強い、インターネット出身の偏屈な人間が集まるとやはり居心地が良い。

 もちろん少ないけれど女性部員も乗り気だ。大きいレジャーシートを敷いて、冷え対策にそれぞれ持参した毛布と、誰かが立ち寄ったコンビニで調達してきた肉まんを用意している。寝転がって、赤いセロハンを貼った懐中電灯で星座早見盤を照らしながら空を見ていた。

 僕も顧問の先生と一緒に撮影機材をセッティングしている。先に準備を終えた組は既に流星群を堪能しているらしく歓声が聞こえた。今回のは特に大きいようで、空のコンディションも良くかなり期待していたのだ。


 僕たちが3年生になって部活を引退した時、同学年の奴らは「イルミネーションを見に行きたい」と言うようになるのだろうか。それともまた、今日のように星が見たいと言うのだろうか。
 僕は後者を選ぶ変わらない皆でいて欲しいけれど、揃ってイルミネーションを見る特別な日が来ることを心のどこかで楽しみにしていた。



お題:イルミネーション

12/14/2023, 2:32:55 PM