一匙

Open App

手を繋いで

誰かと手をつないだ時のことはよく覚えている。恋人、ではないけれど。

黄色の学生帽子をかぶっていた懐かしい帰り道、おばけ屋敷、休み時間、テーマパークでお互いに気持ちが最高潮になったあの時、旅先神社の急な階段で咄嗟に手をとって降りきるまで握っていた。どれも私からじゃなく、相手からだった。自分から手を握った記憶はそこにない。

人が苦手な私にはそれくらい特別だった。自分が認められたような気がした。自分と手を繋いでくれた、人のことは絶対に忘れないし、その時を覚えている。

しかしもうその人たちと繋ぐことはないのだ。相手が離れていったのだ、と思っていたが、自分からだった。気づけなかった。仲良くしようとしてくれていたことに。
みんな心の底ではきっと自分が嫌いなんだ、些細なことで気を落として変な意地をはって心は知らず離れた。好きでさえいれば、信じ続ければ良かったのに。
これから先、誰かと手を繋いだ新しい記憶は更新されないかもしれない、と後悔と寂しさが胸につたう。

手を繋いだときの感触と温度は正直覚えていない、あんなんだったなと想像のうちで生きている。あたたかくて、緊張で手が汗でびっしょりになって笑いあったあの眩しい日を。

12/9/2022, 11:34:53 AM