川柳えむ

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 学校からの帰り道。
 親友と二人、他愛ない話をしながら歩く。
 夕暮れの空はオレンジから徐々に紫、藍と色を変えていく。
 なんとなく空を見上げていた。転ばないようにゆっくりと歩く。

 二人の会話が途切れた。その瞬間だった。
 空の端から端を渡るように、流れ星が一筋の長い長い軌跡を残して消えていった。
 流れ星が、端から端まで。体感10秒くらいか。
 よくある、あの一瞬で消える流れ星とは違い、願い事を余裕で3回唱えられるくらいには長かった。あまりの出来事に、願い事なんて考えてはいられなかったが。
 次の瞬間には二人で「わー!」と盛り上がっていた。
「すごい!」「長かったね!」「あんなに長い流れ星初めて見た!」「願い事忘れた!」

 この出来事は今もよく覚えている。
 親友と、夕暮れの空と、長い長い軌跡と――。
 今ではあの日常全てが特別で。
 あれからもう長い年月が経って、親友とも数年に一度会うくらいだ。
 もし今何か願えるとしたら、1日でいいから、あの日常をまた過ごしてみたい。あの日の私達に会ってみたい。あの日、流れ星に出会えたあの奇跡を、あの高揚した気持ちを、もう一度体験したい。
 そんなことは無理だって、本当は知っているけれど。これは夢物語に過ぎないと。

 それでもここに辿り着いた軌跡は、親友達と過ごしてきた日々は、しっかりと私の中に刻まれている。


『軌跡』

5/1/2025, 4:24:09 AM