あにの川流れ

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 カリッと揚がったコロッケに箸を入れる。ジュワぁと肉汁があふれて口の中に唾液が広がった。衣はサクサク。中はジューシー。肉厚な肉の甘辛い味つけ。
 最オブ高。
 揚げたてアツアツを頬張って幸せに首をもたげる。ほぺったが落ちるなんて誰が言い出したんだろ。言い得て妙な言い回し。ふと、向かい合って座るきみが目に入った。

 ぼくと同じようにコロッケを堪能してしあわせそうに目を細めて。箸が口許から離れてむぐむぐ。
 その唇が油分でつやつや。
 薄くもやわらかい感触をしているそこが、あまつさえ艷やかに色を主張していて。肉感的に動いているのが目に入っちゃったの。

 やゔぁい……めっっっちゃ見ちゃう。
 もうコロッケどころじゃない。
 どうすんの。ただでさえ最近ヘンタイって思われてるのに…!
 別のこと考えよ。

 …………そういえば、リップクリームつけるとき。きみってばハンドクリームをちっちゃな容器に詰めて、指先にちょっとだけ載せてから唇に塗ってた。
 スティック使わないの、って聞いたら。
 ハンドクリームがたくさん余っていてリップクリームにもなると書いてあったので、って言ってた。

 ゔぁ…っ、同じこと考えてるじゃん!
 違うってば、違うじゃん!

 頭抱えたい…。代わりに箸をぎゅっと握った。ぜんぜんごはん減らない。食欲が負けちゃってる…。

 「お口に合いませんでしたか?」

 顔を上げたらきみが不安そうなお顔でぼくを見てるの。そんなわけないの。とってもおいしい。って言いたいのに、ぼくってば節操なし!
 喋るきみの唇ばかり見て、きみの言ってることがぜんぜん頭に入らない。

 口の内側を噛んでなんとか意識をそらす。

 「んーん、おいしい。ぼく、コロッケだいすき」
 「よかった…!」

 ゔぁあーーーっ、『よ』で口窄めないでッ!!
 もう勘弁して!



#視線の先には



7/20/2023, 4:31:14 AM