日記帳があると思っていただきたい。
人様の日記帳だ。
それが無造作にあるわけだ。
人気のない教室で私の机の上での邂逅だ。
なぜ私の机の上に。という疑問があるが人様の物だ。
触れない方が良いのではないか。
という事は、まぁ分かる。
しかし私の机の上にあるのだ、触るなという方が無理があるのではないだろうか。
それとも夕日に照らされ魔が差した。とでも言えば恰好が付くのだろうか。
なんにしろ。
つい、悪戯心に手が出てしまう。
手にして思ったことは、意外と重いという事だ。
300ページはあるだろうか。
いや切の良いところで365ページ。
つまり1年分だろうか。
全てのページが埋まっているのなら、
恐らくはクラスメイトの1年分の思いを綴った記録が、いま、この手の中に、あるわけだ。
そう考えると俄然内容が気になってしまう。
誰の日記なのか。
自分の事は書かれているのか。
書かれているとして、悪くは書かれていないだろうか。
いや逆に好意的に書かれているかもしれない。
流石に中を覗くのは憚れる。
しかし1ページ程、ちらりと見る程度なら構わないのではないだろうか。
いや、しかし、もし見咎められるようなことがあれば責められるのではないだろうか。
だが教室に忘れていく程度の物ならば、笑って許してもらえるのかもしれない。
そもそもとして私の机の上にあったのだ。むしろ読んでほしかったのかもしれない。
いずれにしろ既に手にしてしまっているのだ。
見たと疑われる事は必定であろう。
しかし――
そんな葛藤を十分ほど繰り返していたであろうか。
意を決し、日記帳の中ほどをガバリっと開き内容を検める。
そこには鮮やかな――白紙が広がっていた。
次のページも。
その次のページもだ。
何のことはない、まっさらな日記帳を手に私は葛藤を繰り返していたわけだ。
何とも滑稽な話である。
ぺらぺらとページをめくり最初のページを最後に開くと、そこには見慣れた名前が書かれていた。
「あ、これ私の日記帳だ……」
そういえばちょうど一年前に、日記を書こうと思ったような。
思わなかったような。
自慢げに学校に持ってきたような。
持ってこなかったような。
何のことはない、私は私の日記帳を手に読んでいいのかダメなのか。葛藤を繰り返していたわけだ。
何とも、滑稽な話である。
// 私の日記帳
8/26/2023, 1:36:19 PM