案山子のあぶく

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◎遠くの声
#67

民衆が喝采する。
旅人がその熱気に呑まれる。
勇者は音と熱の渦中に静かに佇んでいる。

全てが瞬きの間に移り変わるだろう。

喝采は怒声にすり変わる。
善政は圧政になり、熱気は冷める。
勇者を振り向く者はいない。

行く末はわかっている。
平和は続かず、再び魔は蘇る。

次も、次も、その次も──────

勇者は立ち上がり、消費され、
忘れ去られる。

いつしか民も王も無くなる。
残るのはそこにあった記憶だけ。

廻って廻って 夢の跡。

勇者と呼ばれた者は、皆、悟るのだ。
全ては無に還るのだと。

故に喜びの宴も儚く、
人々の声も遠くに感じて、
ただ無情に眺め、次第にまぶたを閉じる。

勇者の継承者を憐れみながら
その意識は微睡みに沈んでいく。

4/16/2025, 12:15:55 PM