夜の祝福あれ

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未知の交差点

夜の帳が静かに街を包み込む頃、遥はいつもの帰り道を歩いていた。仕事帰りの疲れが足に重くのしかかる。だが、その夜は何かが違った。見慣れたはずの交差点に差し掛かった瞬間、彼女は足を止めた。

そこには、見たことのない信号機が立っていた。赤でも青でもない、淡い紫色の光が灯っている。周囲には誰もいない。車も、人も、音も、すべてが消えたように静まり返っていた。

「こんな信号、あったっけ…?」

遥は不安と好奇心の間で揺れながら、一歩、紫の光に向かって踏み出した。

その瞬間、世界が揺れた。

気づけば彼女は、見知らぬ街に立っていた。空は深い群青色で、星が近くに瞬いている。建物はどこか懐かしく、けれど見たことのない形をしていた。人々は笑顔で行き交い、言葉は聞き取れないのに、心に直接響いてくるようだった。

「ここは…どこ?」

すると、背後から声がした。

「ようこそ、交差点の向こう側へ。」

振り返ると、白いスーツを着た男が立っていた。彼の瞳は、遥の過去をすべて見透かしているような深さを持っていた。

「あなたは選んだんです。この世界を。紫の光は、選択の証。戻ることも、進むことも、あなた次第。」

遥は戸惑いながらも、心の奥に眠っていた感情が目を覚ますのを感じた。日々の繰り返しに埋もれていた夢、希望、そして恐れ。

「進んだら、何があるの?」

男は微笑んだ。

「未知です。でも、未知こそが人生を輝かせる。」

遥はもう一度、交差点を見た。そこには、再び紫の光が灯っていた。

彼女は深呼吸をして、歩き出した。

お題♯未知の交差点

10/12/2025, 5:35:55 AM