ふゆもと

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 煮えたぎった目が捉えているのは、私ただ一人なのだろう。彼の感情を煮詰め、煮こごらせたのは他でもない自分だ。殺したいほど恨まれているのだろうと言うのに口元が言うことを聞かずにゆるむ。
 この安っぽい物語は私の死をもって幕を下ろす。しかし、主人公側のような有終の美は飾れないだろう。私に与えられた役は悪だ。主人公が私を恨みながら生きながらえ、私を断つことでそれまでの苦労が報われるという王道的なシナリオ。勧善懲悪というのは、いつの時代も万人に好まれる娯楽の最たるものだ。
 私はそのための舞台装置として生まれたのだから、この結末も致し方ないだろう。
 クライマックスに相応しい激闘の末、彼の渾身の一撃が全身を襲う。ああやはり痛いなと顔を顰めるとふと視界に入った哀れみの目。
「ごめん」
 そう耳元でつぶやかれた声は何度も私を断つ役目を与えられた主人公で、お互い嫌な役割を与えられてしまったなあと笑って、遠のく意識の中でくちびるを動かしたが、果たして届いただろうか。

 今日もまた、どこかでページをめくる音がする。読者が物語を辿るたび、私たちは宿命として出会い別れるのだ。すべては作者と読者のために。


【それでいい】

4/4/2023, 3:52:21 PM