木製のテーブルの上に、1つだけ、可愛らしいまんまるのものが転がっている。
白くて、手のひらに包めるくらいの可愛らしい大きさの。
私は紅茶のカップを手に取る。可愛らしいアンティークのティーカップ。白い陶器にちょこんと描かれた、1つだけのピンクのバラの絵が上品で、お気に入りだ。
向かいの席にはテディベアが座っている。
私の1つだけの同居人(?)だ。
この家は、私の好きなものの詰め合わせだ。頑張って、徹底的に好きなもの1つだけを詰めたこのお家を作った。
そして、ようやく完成したこの好きなものだらけの家で、好きなものと好きなことに囲まれて、私は暮らしている。
私の父親は、ほとんど家にいなかった。そしてある時、とうとう死んだ。
母はその心労で、私を異常なほどに可愛がり、保護したがった。私と母は、ずっと2人きりで生きてきた。
その母も、5年前に倒れて、今も意識は戻らない。
その日から私は“オンリーワン”に拘り続けた。誰かの“1つだけ”になりたくて、何かを“1つだけ”愛したかった。
3年前、私には家族も同然の仲間ができた。
愚直な僕くん、そんな僕くんを支える幼馴染くん、そして頼れるアドバイザーの彼。
みんなと過ごす時間は、私にとっては“1つだけ”の“大切なもの”だった。
でも、みんなにとって私は“1人だけ”じゃなかったらしい。僕くんは、1年前、私たち以外の“大切なもの”を守るため、戦いにいった。
私は自分が“1つだけ”になれなかったショックで、「大丈夫。」なんて心にもないことを口走った。
私は“1人だけ”になりたい。“1つだけ”になりたい。変えの効かない“1つだけ”に。
私は“1つだけ”。私が愛するものも“1つだけ”。私にとって、何もかも“1つだけ”、たった“1つだけ”でいい…
だってほら、1つだけならこんなに世界は綺麗だ。
見たくないものも、1つだけなら、見なくて済む。
私は窓の外を見て、そう思う。
だから私は、紅茶を一口飲んで…口ずさみながら…テーブルの上の白いまんまるを手に取る。
ぬらぬらガラス玉のように光るそれ。
私はそれをゆっくり潰す。
くちゃり、と柔らかな音を立てて、それは呆気なく潰れた。
これで、私の目は世界で“1つだけ”の目。
いいでしょ?
座るテディベアに向かって微笑んだ。
今日も他にないほど素敵な1日!
4/3/2024, 12:30:14 PM