あお

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 クラスメイトが言う。
「今日は海沿いを通って帰ろうぜ」
 親友と帰るのが日課だと断ったが、強引に手を引かれてしまった。
 クラスメイトなのに名前も知らない彼。それくらい接点がない。しかし、下校を共にしたいと言う。一体、何が起こったのだ?
「なんで俺なの?」
「なんとなく!」
 納得のできない理由だが、説得するのも面倒だ。己のフィーリングに従って生きている彼に、俺の言葉など通用しないだろう。
 彼の背中に興味はない。海に視線を向けた。
 一面の青に反射する光がキラキラして眩しい。親友はこれを嫌がる。だから、今まで海沿いは通らなかった。
「なあ。お前、なんでアイツとつるんでるんだ?」
 アイツとは、親友のことだろう。俺と親友は恋中にあると、まことしやか囁かれている。
 噂の発端はわかりかねるが、毎日くっついていれば、誤解もされる。
 どう思われたって、俺たちが離れることはない。すぐに飽きるであろう話題だ。好きに言わせておけばいい。
 そう思っていたが、彼だけは飽きないらしい。
「一緒にいたいから」
「やっぱ付き合ってんのか?」
「付き合ってない」
「ふーん」
 頭の後ろで手を組む彼は、つまらなそうな声を出す。そして、煙草をポケットから取り出した。
「未成年が吸っていいものではないぞ」
「はは。うっざ」
 取り出した一本を咥えようとしたから、咄嗟に取り上げた。
「は? 返せよ」
「返したら吸うだろ」
 彼はとても小さな声で、俺のことを堅物と言った。なんと言われようが、見過ごせない。
「なあ。海岸に寄ってこうぜ」
 海岸まで走る彼はとても無邪気だ。だが、寄り道にまで付き合うほど、俺は優しくない。この温度差を、とても気持ち悪く感じる。
 そのまま家路を辿ると、門の前に親友がいた。
「なんで先に帰ったの?」
「いや、拉致られたんだよ。俺は被害者」
「……ユキルくん?」
 俺が他の誰かと話すと、親友は悲しそうな顔をする。この顔はあまり見たくない。でも、すぐにその場を明るく出きる術もない。
「よくわかったな」
 雑に相槌を打つ。彼の名前を知らないから、誰を予想されても答えられない。
「彼となにを話したの?」
「なんだっけ。忘れた。それよりさ、行きたいとこあるんだけど」
 歩き慣れた通学路から逸れて、海沿いの道を歩く。ついさっき、彼と歩いたこの道を、親友と歩きたいと思った。
「海に夕日が反射してるね」
「そうだな」
「眩しいよ」
 親友は光に弱いのだと思う。サングラスを贈るべきか迷ったが、必要なら自分で用意しているはずだ。
「ごめん。でも、この景色はお前と見たかったから」
 何をするにも親友と一緒だったから、彼と歩くことに違和感を覚えていた。ずっと避けてきた海を、誰と見るよりも先に、親友と見ておきたかった。
「眩しいけど、綺麗だね。君と見た景色、僕はずっと忘れないよ」
 今生の別れみたいに、悲壮感が漂う声で言うものだから、大袈裟だな、と笑った。

3/22/2025, 6:57:17 AM