僕の巣は、外の風がやさしく薄まって届く場所だ。
朝日のきらめき、昼の暖かな日差し、沈んでいく夕日、優しく光る三日月。
ここで過ごしていると時間の輪郭が曖昧になる。
ここにいると、急ぐ理由がひとつもなくなる。
アップライトピアノの前に座って、鍵盤に指を落とす。音は高くも低くもなく、ただ空気に溶けていく。弾いてはやめ、やめてはまた弾く。誰かが来る予定なんて、どこにもないから、曲は区切りを持たない。
ぬいぐるみはいつもの場所にいる。抱えれば、安心がすぐ形になる。
お気に入りの椅子に戻って本を開く。文字を追っているうちに、ページの隙間から眠気が零れて、僕はそのまま目を閉じた。夢の中でも、巣は変わらずに穏やかな空気のままだった。
目が覚めたら、小さなお風呂にお湯を張る。髪の先から足のつま先までしっかり温めて、湯気の向こうで外の音を想像する。
君は来るかな?来るかどうかは分からない。
でも、待つこと自体が、ここでは一つの過ごし方だ。
またピアノに戻る。今度は短いフレーズだけ。
飽きたらふかふかのベッドに横になり、天井から降り注ぐロウソクの光の粒を数えながら、静かに呼吸を整える。
ぬいぐるみ。椅子。小さなお風呂。ピアノ。ふかふかのベッド。
のんびり、ゆったりと時間が過ぎていく。
通路の向こうの玄関の気配に耳を澄ませながら、今日も巣は優しく僕を包んでいた。
お気に入りが詰まったこの場所で、来るかも分からない君を待ちながら。
#この場所で Sky side.S
……チリリン、と来客を知らせる鈴の音がなった。
にっこりと頬が緩むのを感じながら、僕は急いで玄関に向かうのだった。
2/12/2026, 9:11:40 AM