日が沈むのが早くなった。
窓から差し込む日差しは少し赤くて、空にはほんのりと茜色が混ざってきている。エアコンが切られた教室はまだ蒸し暑い。けど、開いた窓から吹き込む風は、秋の冷たさが混じり始めていた。
窓辺の自分の席で頬杖をつきながら、僕はひとり、外を眺めていた。
グラウンドで練習する運動部。遠くに聞こえる吹奏楽部の楽器の音。青春に打ち込む誰かの気配は眩しくて、だけどもうすぐ見納めなんだと思うと、どこか感傷的な気分になる。
別に、寂しくはない。
父親が転勤族なせいで、昔から転校は多かった。
初めの頃は友達が欲しくて明るく振る舞ったりもしたけど、回数を重ねるうちにやめた。僕は元々内気な方で、社交的なキャラは向いてない。本があれば暇は潰せるし、最低限の愛想があれば、そこまで孤立もしないと分かったから。
この学校での僕には、親しい友達は居ない。
だから、別れが寂しい人もいない。
これでいい。転校のたびに別れを嘆くのは、すごく、心が疲れるから。
目的もなく、ぼうっと外を見ていると、いつの間にか真っ赤な空に藍色が混ざり始めていた。部活が終わったのか、ちらほらと校舎へ戻っていく運動部たちを眺めてから、立ち上がって窓を閉める。
寂しくはない。
ただ、終わりを気にせず笑える皆が、少し羨ましい。
∕『誰もいない教室』
9/7/2025, 3:44:06 AM