ことばはあぶくとなって声は潰えてしまった。はくはくとかたくとざされた扉に、かつてのうばわれたもの、愛していた嗜好をまのあたりにしたときに、つぅ、っとぼくのなかのみずうみが溢れだした。いたみ、かなしみ、言い淀んだかけらを飲みこんで、宙をみあげた。かぜは荒れ、木の葉はゆれ、いさかいに行き交うまちなみをひたすら歩んだ。息は、きれそうだ、あるきつづけて、悴んだゆびをまさつによってぬくめて、いきどおりのみをともしびに、薪に焚べていた。あまやどりに、もりへ立ち寄った。そのときに毛布をゆずってくれたきこりの青年に、「ぼくはかれらをゆるしたくはありません。やさしさとは、なんですか。すべてを受け容れることでしょうか、ほほえんで、ただ平穏にくらすべく、あわせることをよしとすべきですか。つらいのです。けれど努めるほかに、方法をしらない。かみさまなんていやしない、すべてきらいだ、にくらしいんだ、これは汚れのあかしと、糾弾なさるか。あなたは。」ほつれた衣服のむなぐらをつかみ、おもわず叫んだ。きこりはただしずかに、ひとつ、ふたつ、おちついて、と、唱えた。そうして、「きみは、よくよく怺えてきた。されど思いすごしをしてはいけない。復讐に身をやかれ、たましいを濁らせることはないんだ。そのおこないに蹲ったなら、もうつぎの目に遭うひとをなくすよう、ただ、善処していけばいい。すぎたことは戻らないんだ。なけど、いかれど、暴力のあらしはまたつぎの犠牲者をうむだろう。その傷んだこころごと、だきしめて。きみのおもううつくしい箱庭にたいする、つくりあげるための、対価だったとおもうんだ。いいね?どうか、踏みはずさないで。きみのために、このさき出逢う、とうとい友のために。」やさしいあまだれだった。さとすでもなく、説きふせるでもなく、かれの垣間みえた善良なこころに少年はひくつき、しゃっくりをあげては、ちからなく地面に足をついた。そうして小指をたがいに結び、どうか、と。「どうか、これから困難をしいるかれに、淡くとも、やすらかなひかりあれ。かならず、むくわれるさ。きみをふくめ、この世において、むだなことは何ないんだ。さあ、なみだを拭いて、かおをあげて。絶望は、ながくはつづかない。たとえ泥まみれになろうと、がんばれるひとの背なかは、かがやいているものだ。もしも折れそうになったら、またここに来ればいい。ただ、かえらぬことを願って。」とん、とかるくてのひらをおしたと思うと、霞がかり、すがたも、村も、跡形もなくなってしまったが、年月をかけて、果たすと。ひとみは滲みながら、一歩。踏みだした。さあ、いざゆかん、たびびとに幸いあらんことを。祈りを、祝福を。
1/29/2026, 8:11:25 AM