No.36『虹を渡った黒猫』
散文/掌編小説
空から飴が降ってきて、わたしは思わず空を見上げた。
「ごめーん。大丈夫?」
いや、大丈夫?
そう聞きたいのはこっちのほうだわ。心の中でツッコミを入れつつ、声がしたほうを見やる。見上げた先には、一本の大きな桜の木。そろそろ満開になろうとしているその木の、一番下の太い枝に、小柄な少女が座っていた。
いや、なんでそこにいる?
漫画でありそうなのは、降りられなくなった猫を助けるためだったりするけど、どこにも猫の姿は見当たらない。というか、なんで飴?
それもひとつじゃなく、何個もパラパラと降ってきた。
「それ、あげる」
少女はそう言うと、ぴょんと桜の枝から飛び降りた。受けきれなくて、地面に散らばった数種類の飴玉。もちろん、きちんと包装はされているけど。飴をもらったのは久しぶりだ。地元じゃ、知らないおばちゃんからも、もらっていたけど。
「みーちゃん、それ好きだったよね?」
そう言われて、行ってしまおうとする彼女を思わず振り返った。
みーちゃん。それは、わたしの子どもの頃のあだ名だ。その時、向こうに行ってしまう彼女のおしりに見つけたしっぽ。
真っ黒のワンピースを着て、赤いリボンのチョーカーをした彼女を追い掛け、夢が醒める前に彼女にお礼を言おうとそう思った。
お題:夢が醒める前に
3/20/2023, 11:01:10 AM