柔良花

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 夜空みたいに真っ黒で、見つめても形を変えない。そんな君の目がぼくは大好きだ。
 両手でそっとほっぺたに触れれば、君は嬉しそうにくすくす笑う。

「ふわふわさん。くすぐったいよ」
君がぼくを呼ぶ時の柔らかくて甘い響きも、とても、とても大好き。君がそばにいてくれるだけで、ぼくはとっても嬉しくなるんだ。


 暗い森の奥に住む、毛むくじゃらで大きな身体をした化け物。町の人はぼくをそう呼んでいる。悲しいけれど仕方のないこと。だってそれは本当のことなんだもの。頭のてっぺんから足の先までふわふわの毛皮に覆われていて、身体だって森の中ではいちばん大きい。町のみんなとはぜんぜん違う姿。だから、みんながぼくを怖がるのは当然のことなのだ。

 本当はみんなと仲良くなりたい。けれど、それはむつかしいって分かってる。ぼくが町に行くと、みんなが怖い顔をして石を投げるから。迷った人に話しかけると、目を大きく開いて怯えたり、泣いてしまったりするから。おひさまとおつきさまに何度挨拶をしてもそれは変わらなかったから、もうずっと昔に諦めていたんだ。

 それが変わったのは君が来てから。くらいくらい森の奥、君はひとりで眠ってた。ふしぎに思って声をかけたら、目覚めた君はきょろきょろ頭を動かしてた。それで、僕のほうによたよた歩いてきて、そしてぶつかった。ぼくのふわふわの毛皮に、君の頭がくっついた。「こんにちは」と ぼくが君に挨拶すれば、君はぼくの毛皮に向かってにっこり笑った。

「こんにちは、ふわふわさん。ぶつかってしまってごめんなさい。わたし、なんにも見えないの」

 驚いて君の目をじっと見つめてみるけど、いつまでたっても動かないまま。みんなみたいに怖がらないまま。それが何だか嬉しくて、つぶさないようにゆっくりと君を抱きしめた。僕の身体にすっぽり包まれて笑う君と絶対にお友達になるんだと思った。

 帰り道が分からないと君が言ったから、ぼくのお家にお招きした。むかしむかしのその昔、どこかの人間さんが森に建てた小さなおうち。ぼくにはちょっと狭いけど、君が暮らすにはじゅうぶんなおうちに。その日から一緒に暮らすようになった。ぼくと君は大事な大事なお友達同士になった。

 君が森で寝てたわけ、本当は知ってる。けれどそれは君には秘密。悲しい話は嫌いなんだ。
 くらいくらい森の中、ぼくと君とのふたりきり。大事な友達とずっと一緒。それだけあれば十分だから。
 
【君の目を見つめると】

4/7/2023, 8:59:50 AM