「あ、そやさ、これどう思う?」
なんとはなしにと装い問う
今自分はなんと言ったっけ、あぁそうだ
孤独な鯨の話の続きだ
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【世界で最も孤独なクジラ】
それは80年代辺りから観測されている、奇妙に歌うクジラ
クジラは大抵10〜39Hz程の低周波数で鳴く所、このクジラは52Hzといった脅威的な周波を操る類まれなる存在だ
他と大きく異なるその声は、誰にも認識されることは無いのではという推測からこのように呼称されている
その形貌は現在至るまで確認されておらず、今も広大な太平洋の海のどこかを悠々自適に漫遊している
尤も、個体数や本当にコミュニケーションが取れないのか、様々諸説はあるそうだが
「鯨ってさ、孤独とかなんのかな」
眉ひとつ動かさず平然と呟く
考え得る反応はこうだ、共感もしくは無反応や当たり障りの無い言葉
その他なら程よい素振りで対処しよう
己で身勝手に口に出しておきながら、次の一手の算段を立てる
別に何か討論をしたかった訳ではない
かといって何かを強く求めた訳でもない
聞いて欲しかったかどうかすら、よく分かっていない
一つ言葉に嵌めるなら、言いたかったのだ
届かないだろう、構わない、そうなるように言葉にした
ただ、孤独を、空気の震えに押し付けたかった
それも見たこともない生命に重ねて
心根なんて対人関係に持ち込む利点は余りない
だから縋った、寒風がこの荷重を浚い憶えた儘でいるように
その先でどうか眼前に在るこの友に、ふと引っかかってはくれないかと
我ながら褒められたものでは到底ないと酷く思うが、バレなければ罪ではない、といい
秘密の手紙を認めるように心を置いて、また意味もない駄弁を再開した
またどこか少しだけ、鯨に自分を重ねる
12/4/2025, 3:59:25 PM