ひなた

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 生きていれば多くの選択肢が私達を待っている。
 
 朝何を食べよう、髪型やメイクはどうしよう、時間ができたからどこか気晴らしにでも行こうかな、夜は好きな配信者のライブを見ようかそれともたまにはゆっくり休もうか。大学はどこにしよう、就きたい職業はなんだろう、家はどこにしよう、ペットも飼いたいけれど犬にしようか猫にしようか。

 私が今まで下してきた選択の多くは、私を幸せたらしめなかった。だからか私は間違えたという言葉を自然と使ってしまうようで、古くからの友達にも、以前お付き合いしていた彼にも言われてしまったほどだ。

 ――あなたに会えたこと、今もこうして幸せに過ごしていること、全部が嬉しい。あなたを選んで正解だった。

 その幸せは長続きしなかった。

 あの時どうすればよかったのだろう。どうすれば正解だったのだろうか。最近はこうしてもうひとつの物語に思いを馳せることがいつもだ。後悔しても何も変わらないし、選択を間違えた結果に溢れたこの世界で、今もまた知らず知らずのうちに未来の後悔を生み続けているのかもしれない。

 ――今まで君が会ってきた人の中で、会って正解じゃなかった人なんていないと思う。中にはもちろん嫌いな人だっているかもしれないけれど、その人に会えていなかったら今の君じゃないんだし。

 彼の言葉にはどういうわけか説得力があった。過ごした年数は変わらないはずなのに、彼のほうが私よりも世界の多くを知っているような気がした。そしてその勘は当たっていた。私なんかよりもずっといい女を捕まえてこの家を去った。私のような狭い心と考えの女には興味がなくなったのだろう。以来一度も彼とは話していないし、連絡も取っていない。これからは友だちとして、という彼の提案を受け入れることができなかった。心を支えてくれていた人が失われ、暗闇に葬られた当時の私には。

 大学生の頃から一人暮らしをしていたこともあってそれなりに料理は作れたものの、人に振る舞う味とは言えなかった。彼のために一生懸命料理を練習して、彼が食べたいと話していた料理も挑戦して、そして彼は美味しい美味しいといっぱい食べてくれて、私は嬉しかった。今となっては振る舞う相手もいない。

 二人で買い物に行って、彼に似合いそうな服を見せると「おお、いいじゃんそれ」と笑顔で答える彼。二人揃って好きな匂いだったことに興奮してすぐに買ったシャンプー。服もシャンプーも行き場を失ったかのようにこの家に取り残されたままだ。いつ彼が戻ってきてもいいように。

 私はどこで間違えたのだろう。私のもうひとつの物語はどうなっているのだろう。今もまだ彼は私の隣にいるのだろうか。シャンプーの匂いは二人同じなのだろうか。私の料理は彼の口にも届いているのだろうか。

 私は今夜もまた彼が使っていた布団にひとり沈んでいく――。

10/29/2023, 12:50:08 PM