récit

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まだ10代だった僕の記憶の中で、ある特別な夢の場所があった。
そこで君を見つけた。君は静かな月影のように綺麗だった。君を見ていると、空気が弾んで、膨張と圧縮の微妙なバランスが崩れていく。その時、君はふっとつぶやいた。
「月に戻ろうかしら」

僕は問いかけた。
「君は月の住人なのかい?もしかしたら、かぐや姫?そうだとしたら、君は一体、月でどんな罪を犯したんだい」

君は静かに答えた。
「地球で恋をしてみたいと思ったの。喜びや苦しみ、そんな感情を体験してみたかったの。月には喜怒哀楽なんて存在しない。だって、あそこは氷の世界だから。感情を持つなんて許されないの」

その瞬間に君は淡く消え去っていった。

今にして思えば、これは、僕があの頃片想いしていた女の子の幻影だったのだと、ようやく気付くことができたんだ。


「君を照らす月」

11/17/2025, 1:23:48 AM