NoName

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「なんか、暇だなあ」
Aは人を駄目にするクッションの上で寝返りを打つ。ポヨポヨと弾むクッションと共に揺れながら、大きなあくびをひとつついた。Aの目線の先にはNがいる。彼は2人分の紅茶を入れ直していたが、ふと思いついたように手を止めると、Aに悪戯な笑みを見せた。
「ならさ、久しぶりにあれをする?」
「あれ?」
思い当たる遊びを考えても思いつかず、怪訝な顔で宙を見る。Nは思い馳せるように両手を閉じた。
「御神託だよぉ。前にやったのは二十年前だっけ? そろそろいい頃合いだし、また適当な人間を探して救ってあげようよ」
「えー、でも動きたくない……」
「四の五の言わずにいくよ! 善は急げだ!」
NはクッションにしがみつくAを引っ張り、人間の住まう星地球へ向かった。


「あ、あの人間にしようよ。あの死んだ瞳! なんて可哀想なんでしょう」
Nが最初に見つけたのは、早朝の駅で人混みに紛れて電車を待つ、連勤中のサラリーマンだった。顔はやつれはて、目にクマができている。Aはそれをみて首を振った。
「あのオジサンは冴えないから、きっと助けても対して面白くないさ。それに僕、大人は浅ましいから嫌いなんだ。子供にしよう、ね」
「私は多少欲に正直な方が、可愛げがあって好きだけど。うん、じゃああの女の子は? 彼女もなんだか死人のような顔してる。元気づけてあげようよ」
今度にNが指を指したのは、サラリーマンと同じ電車を待つ女子高生だ。マスクで目元以外を覆っているが、それでも彼女が暗い表情をしているのがわかる。カバンを両手で強く抱きしめ、じっと足元を見つめている。
「おお、いいね。彼女、十分後に死ぬようだ」
「なっ」
Aの言葉を聞いたNが、目を見開いてAを振り返った。
「また君は答えを見たんだね! そっちが知るのは勝手だけど、ネタバレはしないっでっていつも言ってるじゃない!」
「なんでさ。別に死亡時期なんかネタバレなんて大層なものじゃないだろ。それに、君の言葉で彼女は実際の生より長く生きれるんだぞ。僕がそれを言わずにいれば君は自分がどんなに良いことをしたか、知らずにいただろうね」
Aのすました態度にNは悔しそうに手を握る。
「もう、なら助言したあとの彼女の人生は言わないでよ。楽しみにじっくり見るんだから」
「はいはい。ほら、早くしないと見失っちゃう。行こう」
AはNの言葉を聞かないうちに、女子高生の下へ降りていく。
「あ、ちょと待ってよ!」
Nも急いでAに続いた。


7/27/2023, 2:15:03 PM