目が覚めると
平凡な天井、戦いのことを考えなくてもいい日々、知らないはずの生活をなぜか知っていた、あの目覚めの日から、はや3ヶ月。剣も魔法も使わないまま、僕の手は仕事のための鞄とか、生活のためのあれこれ、それにゲームのコントローラーをほぼ毎日握るようになった。
僕だけがこんな平和な生活をしていていいのかと、当初は焦りはしたが…このゲーム。剣と魔法の世界での冒険が描かれたこれこそが、僕のいた世界のようなのだ。セーブデータがひとつ。そこから始めると、まさに、あちらにいた時の僕の記憶と続いていた。世界観も、用語も、まさに。念のためひとつ最初からやってみているところだ。
これをクリアすれば、僕のいた世界も救われるのではないか。
…ふと、セーブデータの進行状況に追いつきかけた時、インターネットで検索をしてみた。 確実に,誰も死なせずに、進む方法があるなら、それをなぞればいいじゃないか。
いくつも攻略情報を見るうちに、時々おかしな書き込みがあることに気がついた。
「成されてしまえば、幸せな幻覚の中でお前は死ぬ」
変に心にひっかかって、気分が悪くなってきた。
スマホを置いて,もはや習慣になった動作でゲームをつける。ふと、元々あったセーブデータのほうを開いてみた。NPCの台詞や、状況で、元の自分の記憶と繋がる。これから、敵を…倒しに…。
………いや。
倒したはずではなかったか?
僕は…そう、勇者一行を、倒したはずだ。
我が主が望む世界の救済を阻む,無知で、純粋な、人どもを蹴散らすために、主の第一の剣として、勇者どもを…。
戻らなければ。
勇者側から何らかの術を受けてこんなぬるい世界に来てしまったのだろう。
であるならば。あの戦いの中で何があったのか知らねば。コントローラーを握る。
「我が主のために」
"敵"と僕の台詞が重なる。勇者一行を操作して、癪だが一旦"僕"は負ける。その後、イベントがある…僕は力を振り絞り、勇者たちを次元の狭間へ…。
…勇者たちが飛ばされた場所は、まさに、今、僕がいる世界。勇者たちは方法を探り、"敵"と入れ替わりに世界を脱出する方法を見つける…。
「なるほど」
そこまで分かればこっちのもの。僕はそのゲームで見た通りの方法を試しに、平穏な街へ繰り出した。
*
「ピースフルルート通常Pルートでは、敵が全員仲間になるまたは少なくとも死なずに別々に生きられます。
ただ、1週目では困難で、運ゲーです。というのも、主人公たちが元の世界に帰還した後、例のボス(バレ伏せ)が帰ってくるかが、まさかの確率です。帰還する前までの選択肢で多少は確率が上がります。賛否両論ありますが、ハピエン厨の自分はリセマラしました」
7/10/2023, 1:28:01 PM