「1億4960万km。これ、何の数字でしょう?」
彼女が突然そんな問題を出してきた。でも、僕にはまったく分からなかった。
だからなんとなく、
「月と地球の距離?」
と聞いた。
すると彼女は吹き出して、
「それは38万km。1億4960万kmは、太陽と地球の距離だよ」
そう言ってメモ帳にその数字を書き、僕に渡した。
「次のテストに出すから覚えておきなさい」
理科のテストは赤点しか取らない僕を相当まずいと思ったのか、先生が開いてくれた特別な居残り授業。
正直、嬉しかった。
さっき言った『彼女』とは、『先生』のことだ。
太陽のように明るい彼女の表情に、僕は入学してすぐ惹かれた。
でも、彼女の左手の薬指には、指輪が光っている。
僕のこの気持ちを打ち明ける日は、一生訪れない。
だから今のこの時間は、悔いのないよう楽しまないと。
永遠にこの時間が続いたらいいのになぁ。
8/6/2024, 2:17:52 PM