「また、『花が咲いた』らしいですね」
静まり返った空間に耐えきれず、新人看守が口を開く。隣にいる太っちょの大男は「おい、ここでその話をするのは違反だぞ。聞いていたらどうする」と窘めた。
「でも、周知の事実じゃないですか」
「それでもだ。『花が咲く』ことを知らないガキが聞いていたら大変なことになるだろ」
看守の会話に耳を傾けていると、不意に袖を引かれた。
「にいに、花が咲くってどういう意味?」
「庭の花でも咲いたんだろ」
頬を膨らませた妹は抗議するように僕を見るが、スルーする。
言えるわけがない。
僕たち、花咲症患者は眼球から花を咲かせて死ぬなんて。
7/23/2024, 11:16:20 AM