『question』
サクリ、とトーストを齧った。
バターの香りが鼻腔を満たす。
向かいの席で夫が蜂蜜に手を伸ばすのを見て、話しかけた。
「蜂蜜って、花によって香りや味が変わるんですって」
「ふうん」
夫が生返事しかしないことなんて、気にしない。
もう慣れっこだし、そのほうが余計な口を挟まれることなく、こちらも思いつくままに喋り続けることができるから。
「有名なのはレンゲだけど、桜や蜜柑の蜜も美味しそうよね」
「ああ」
「うちの八朔の木から採った蜂蜜とか食べてみたいわぁ」
「そうだな」
スマートフォンをしきりに弄っている夫をチラリと見て、カフェオレを飲む。
自家製の蜂蜜なんて無理だけど、庭に生る八朔の実なら、毎年もいで蜂蜜漬けにしている。
今年の実が採れたら、夫に質問してみよう。
「これ、なんの味がするか分かる?」と。
あなたの浮気相手を養分にして生った実なのだと知ったら、甘く感じるのかしら。
3/6/2025, 9:34:03 AM