おもてなし(TOV)
宿に戻ったユーリの目に、異様な光景が飛び込んできた。
宿併設の食堂にリタがいたのだが、その目の前の食卓に、ケーキやクレープなどの甘い菓子がずらっと並んでいたのだ。
甘いものに目がないユーリとしては、頬が緩まざるを得ない。が。
「どうしたよ、これ」
リタは肩をすくめて目線をやった。
そこには、満面の笑みを浮かべた、エプロン姿のレイヴンがいた。
「青年、お帰り。待ってたわよ〜。さあさあ!座って!おっさん頑張っちゃった!日頃の感謝をこめて♡め・し・あ・が・れ♡」
胡散臭さ満載の笑顔と態度である。
ユーリは眉をひそめた。
「何やらかしたんだ?おっさん」
「え、な、何って?」
「おかしいだろ。急に。なんか謝らなきゃならん事でもしでかしたのか?どうせすぐバレるんだからさっさと吐いちまった方がいいぜ」
「ひっ、ひどっ!まだ何もしちゃいないわよ〜」
「まだ?」
「せ、青年、甘いもの好きでしょ」
「そりゃ好きだが…」
あからさまに話を逸らしに来ている。
何の理由もなくこれほどの菓子をせっせと作るはずもない。
ユーリはしばし考え、
「そっか。じゃあ純粋に感謝のおもてなしってわけで、食べた後で、謝罪もお願いもないんだな?」
そう詰めると、レイヴンはグッと言葉に詰まった様子であった。
(やっぱりか)
ユーリは席に着き、クレープを手に取った。
(美味い)
レイヴンの手作りだった。
「ううう…そんな事言われたら白状するしかないじゃない」
レイヴンはしばし唸っていたが、覚悟を決めてそう言った。ユーリの横に来て正座をし、手のひらを合わせて頭上に差し上げる。
「青年!お願い!この後一緒に酒場につきあって!」
「なんで」
「いや〜今日出会った、とっても素敵なお姉さんがさぁ〜青年を連れて来たら一緒に飲んでくれるっていうからぁ」
そう、ヘラリと笑った。
期待を裏切らないレイヴンらしい理由に、ふたりは心底呆れた。
「馬鹿っぽい…」
「裏事情しかねぇじゃねぇか。俺は釣り餌か」
「そ、そんな事思ってないわよ?!」
「じゃあ、どういうつもりだよ」
「そ、そもそも!!青年がフェロモン垂れ流しで歩いてるのがいけないのよ!」
「はぁ?」
「お姉さん、街中で青年見かけたらしいけど声かけらんなかったって、一緒にいたおっさんに声かけてきたんだもん。俺様の魅力を存分にお伝えして、夜一緒に飲みませんかって誘ったら、青年が来るならって…」
勢いの良かったレイヴンの声が、みるみる萎んでいく。
話を聞いていたふたりは、哀れみの目でレイヴンを見た。
「それ、普通にお断りされてるじゃん」
「モテねぇんだな、おっさん」
「ううう、傷つく」
レイヴンは肩を落とし、泣き真似をした。
気持ち的には本当に、少し泣いていたかもしれない。
その後、レイヴンの賄賂目的の手作りお菓子は、次々帰ってきた他の仲間のお腹におさまった。事情を知らないカロルやエステルから感謝され、少し報われた気持ちになるレイヴンなのであった。
裏ばっかり=表なし
思ってない=思てなし
モテない=おモテなし
10/28/2025, 1:41:47 PM