シオン

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 遠くで小さな音が聞こえた。ベルのような心地よい音色はサルサを穏やかな気持ちにさせる。
 続いて肩が揺さぶられる。穏やかな気持ちに水がさされて少しだけ不快感を顕にした。
 しかし、彼の気持ちは届かず肩の揺さぶりは続く。正式に抗議をするためにサルサは目を開いた。
「おはようございます」
 眼前に現れた男はそう言った。礼儀正しく落ち着いた口調で響いた低音はサルサにとって素晴らしいものに聞こえた。
「…………ん……?」
 抗議の声を上げようとして口を開いたものの、言葉は意味の無いものとして発せられた。
「……もう朝です。六時、過ぎてますよ」
 心地よい低音はそんな音色を紡ぎながら、遠ざかった。二拍ほどおいてカーテンが開く音と共に赤い光が差し込んだ。
「まぶし…………」
「サルサさん、起き上がってください」
 そうして男がサルサの名前を呼んだ時、はじめて夢から現実に意識を持ってくることに成功したのであった。
「……ウィルさん」
 サルサがそう呼びかければ呆れたような顔でウィルは彼の布団を剥がした。
「夜更かしは褒められたものではありませんよ」
「……して、ません」
「…………してなきゃこんなザマにはなってないと思いますが、まぁ貴方がそう言うならそうなのでしょうね」
 ウィルは目を伏せながらそう言った。
「着替えてきてください」
「……はい!」
 勢いよく起き上がって洗面所の方にかけていくサルサを見ながらウィルはふとため息をついた。
「…………確かに昨日の夜更け、遅くまで電気がついていた部屋はサルサさんの部屋だったはずですが……まぁ遠くなので見間違えても致し方ありませんね」
 ウィルは微笑みながらサルサの支度が終わるのを待つことにした。

2/9/2025, 3:54:11 AM