ちとせ

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 ひとの目を見るのが苦手だ。
 でもたとえば配信画面で好きな人の顔をじっと見るとか、舞台に向けたオペラグラス越しに目が合ったと錯覚するとかというのは苦にならない。というよりむしろ好きだと思う。
 つまるところ、相手に見つめられている、そう意識してしまうのが苦手なのだろう。
 配信では相手はカメラを見ているし、舞台では客席のひとりなんて見ていないか、見ていたとしてもそれは暗い客席の中でライトを反射させたオペラグラスだ。
 しかし目の前にいるひとと相対するとき、こちらが相手を見ているように相手もまたこちらを見ている。それが苦痛で、それを実感したくなくて、私はそっと視線を落とす。
 相手がこちらを見ている事実は変わらないのに、それだけで少し気が楽になるのは不思議だ。

3/28/2024, 12:43:24 PM