最近、夜に近所を散歩していると雪を待っている
少年を見かける。
いつも「いつになったら雪が降るかなぁ」と言って
空を見上げている。年齢はまだ小学3、4年生だろう。
その子はいつも熊のぬいぐるみを抱き抱えたまま夜の7~8時ぐらいの間一人でただ公園で空を見上げている。
1ヶ月くらい前からその子をよく見かけるようになった。
だが、いつ見かけても男の子はずっと一人で
ベンチに座っている。
流石にこんな冬に子どもが一人で公園にいるのは
おかしいと思い、カイロを持っていってあげてそのまま
その子の話もちょっと聞こうとした。
翌日、午後7時半くらいにいつも
男の子がいる公園に行った。
案の定、今日も男の子はその公園にいた。
男の子が座っているベンチのとなりに座ると
男の子は驚いたような顔をしていた。
だけどこんばんはと言ったら
ちゃんとこんばんはと返してくれた。
そのままカイロを渡そうとしたが男の子は熊の
ぬいぐるみから両手を離さず受け取ってはくれなかった。
なので男の子の上着のポケットに入れといてあげた。
そして男の子に何でいつもこの時間にここにいるのか
聞いてみた。
すると男の子は「ここでママを待っているの」と言った。
男の子曰く、
お母さんは雪が降る日の夜にまたここに戻ってくるねと
言い残してどこかに行ってしまったそうだ。
そう聞いた瞬間、私は心が痛くなった。
たぶんこの子のお母さんはもうここには戻ってこない。
まず、この公園で再開する意味がわからない。
普通は家で再開するだろう。
それに雪が降る日や夜に戻ってくるという
意味もわからない。
私の住む地域はもう10年以上雪が降っていない。
お母さんがわざと雪の降る日に戻ってくると言ったなら
もう戻ってくる気はないだろう。
わざと雪の降る日に戻ってくると言ったなら許せない。
会う日が抽象的に決められているよりも少しでも具体的に
指定されている方が会えると余計に期待をしてしまう。
期待させるだけ期待させておいて会いに来ないのが
一番たちが悪い。
この子のお母さんはもうこの子に会いに来ないだろう。
もしくは会えないんだろう。
自殺か、人を殺したか、癌などの病気が悪化したか。
理由ははっきりとはわからないが会えないということだけは大体わかる。
それなのに男の子に期待を抱かせるなんて最低だ。
もう会えないとはっきり言われた方がまだましだ。
そんなことを考えながら男の子にもうお母さんは
会いに来ないと伝えた。
しかし、男の子は絶対会いに来るの一点張りで
自分の意思を曲げない。
何度もお母さんはもう会いに来ないから
公園に来る意味はないと説得をした。
かれこれ1時間ぐらいは説得しただろう。
それでも男の子が私の意見を受け入れることはなかった。
それだけお母さんのことを信じているし好きなんだろう。
そう思うと余計この子のお母さんが憎らしくなる。
こんな純粋な子を騙すなんてよくない。
私も10年くらい前にお父さんに「出張でしばらく家に
帰ってこれないけど元気にするんだぞ」と言われた。
だけど、全然帰ってこなかったから2年前くらいに
お母さんにお父さんはいつ帰ってくるのと聞いてみた。
するとお母さんはお父さんは海外に手術を受けに行って
失敗して亡くなったと教えてくれた。
もともと成功率の低い手術らしくてお父さんは
死ぬ覚悟もしていたらしい。
それを聞いて私はすごい悲しかった。
嘘をつかれた悲しみともうお父さんには会えないという
現実を突きつけられて一年くらい塞ぎ込んでいた。
そんな経験もあるからこの子にはそんな思いをしてほしくない。そう思い、私は
「じゃあこれからは私も毎日君のお母さんが戻ってくるの
一緒に待ってていいかな?」と聞いてみた。
男の子は少し考えたあと「寒いのにいいの?」と言った。
そんなの大丈夫に決まっている。
少しでも現実を知った時の辛さを和らげてあげられると
思えば全く苦ではない。
1年でも10年でも待ってやる。
この男の子のお母さんが帰ってくるまで。
12/15/2024, 11:38:50 AM