【空が泣く】
目の前の男は変態だ。
正直言って胸糞悪いが、気を悪くしないで欲しい。
道路をゆっくり歩く老婦人に対してわざと大きな声で
「危ないよ!邪魔邪魔!」
と言って老婦人を辱めて快感を得たり、
またある時は、電車で自分の後に即座に席を奪った
女に対して笑いを堪えるように、馬鹿にしたように、
「まだ貴方のお尻の下の定期取れてないんですけど」
と言い、恥ずかしそうに謝る女に快感を得ていた。
そんな男は今、泣きながらある要求をしているのだ。
その要求はこうだ。
「僕は毎日が退屈で仕方ない。終わらない退屈が続く人生には飽きてしまった。人を辱めるだけじゃ足りないし、僕はこの手で僕を辱める。本当は人の手は借りたくないが、どうか僕を撮影して恥の絶頂までの手伝いをしてくれ。自由を手に入れさせてくれ。恥の絶頂の先で言葉、感情、呼吸まで忘れてみたいんだ。」
僕は快く承諾した。男の涙も悪くないと思ったのだ。
撮影当日は台風並みの大雨だった。
空も彼が来るのを拒んで絶望して泣いているのか。
大丈夫だよ。もっと泣いていいよ。
綺麗に撮るから。
9/16/2023, 10:45:49 AM