シシー

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 1輪の花束で伝えること。

 花束なのにたった1輪だけなんてケチ臭いと思うだろうか。だけど、数百円を握りしめて歩き回っていた自分にはそれが精一杯だった。言葉すら通じるかもわからないのに飢えも渇きも癒やさないきれいなだけの花を贈られても喜ばないよな。欲しいものなら俺もおまえもいっぱいあるのに、手が届くのが何の役にもたたない飾りだけとか笑える。もちろん情けないという意味で、だ。

 花瓶なんて洒落たものもない。飲みきったビール缶を軽く濯いで、味気ない公園の水で満たしたそこに場違いなほど鮮やかな花を挿す。
人気のない公園の隅で不自然な小さな山が少しだけ華やいだ気がする。なんとかっていう法律だか条例だかの違反にはなるが、こいつには帰る家も墓もない。そもそも人でもないこいつに人のルールを押しつける方が野暮だろう。死に場所くらいくれてやるのも優しさだ、俺って優しい。

「…俺もおまえもロクでもない人生だったな」

 あ、こいつは猫生か。まあいい死人に口なしだから文句言われようがどうせ聞こえない。
 子猫の割におっさんくさいダミ声で鳴いてたのにな。

「見た目詐欺だったよな、ほんと…」

 ほんの少し花が揺れる。
 風のせいだろうがなんだろうがどうでもいい。
 ただ猫が死んで、それを弔った。
 
 それだけだ。



             【題:そっと伝えたい】

2/13/2025, 3:07:21 PM