鏡の自分に向かって「お前は誰だ」と問い掛け続けると精神が崩壊する──そんな都市伝説、一回ぐらいは聞いたことあるでしょ?
それをすることで、だんだん自分のことが誰だかわからなくなってきて、目の前にある顔が自分のモノだと認識出来なくなって、まさに「お前は誰だ」状態になって、精神に異常をきたす······と。
今日はね、私がこの都市伝説の秘密を教えてあげる。真実がどうなのか、教えてあげる。
実はこれ、真っ赤な嘘なんだよ。仮にこれを実行したって、精神崩壊には至らないんだよ。
でも、代わりに。その代償に。大切なものを失うことにはなるかもね?
みんなは気付いてないのかもだけど、「お前は誰だ」って鏡の自分に言っているその間、鏡の中の自分も「お前は誰だ」って、鏡越しにあなたに問い掛け続けてるんだよ? そして、こうも思ってる。「お前は自分だ」ってね。
鏡越しに、いつだって隙を狙っている。いつだって目を光らせている。「いつ境界を超えてやろうか」って。
私が言いたいこと、わかったかな? この都市伝説は精神が壊れてしまう、なんて結末じゃない。そんな生優しいものなんかじゃない。「お前は誰だ」とあなたが繰り返したら繰り返すだけ、鏡の向こうの“あなた”は「お前は自分だ」「だから早くその体を寄越せ」って、餌を前にして待てを命じられた犬のように、今にも涎を垂らしそうな気持ちであなたのことをジッと見ているんだ。精神が壊れるんじゃなくて、「あなただったもの」が壊れてなくなるの。そしてぽっかり空いたその場所に、何食わぬ顔をして鏡の中のあなたがピタリと収納される。これで晴れて乗っ取りの完成となり、鏡の向こうのあなたはハッピーエンド!
······え? 信じられない、って? そんな話聞いたことない? デタラメを言うな?
デタラメなんかじゃないのになぁ。だって実際、私はこの体を乗っ取ることに成功したわけだし。鏡の世界ではみんなこの話、知ってるよ?
それでもまだ信じられないって言うのなら······あなた自身で、試してみれば? なんてね!
2/20/2025, 9:00:33 AM