『きっと明日も』2023.09.30
きっと明日もいい日になる。だなんて、誰が最初に言い出したんだ。クソが。
と、あまりお上品でない言葉がぽろりと口をついて出てしまった。自分の内に秘めていたはずなのだが。
しかし、目の前の図体がデカい男は、とくに表情を変えることはない。だとしたら、やっぱり口からは転がり出ていなくて、内の声が大きく響いただけだと思いなおした。
図体のデカい男はこちらには目もくれず、ナマイキにもスマートフォンを弄っている。こちらは先輩だぞ。文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、途端にめんどくさくなり、放っておくことにした。
すっかり中身の無くなった缶コーヒーを持て余し、それを少し離れたゴミ箱に捨てようとしたとき、図体のデカい男がふいに言葉を漏らした。
「それ、こっから投げてゴミ箱に入ったら、明日はいい日になりますよ」
唐突に言われてどんな反応をすればいいのか。
「どう考えても無理でしょ。フタがあるんですよ」
「じゃあ、俺が開けてりゃ問題ないっすね」
図体のデカい男は一人で納得した顔をしてから、ゴミ箱のところまで行くと、フタを遠慮なく開けた。そして、どうぞと言わんばかりに指を指す。
めんどくさい。非常にめんどくさい。
こうなった彼はテコでも動かないので、仕方なく付き合ってやることにした。
空き缶を雑に投げてやると、いとも簡単にゴミ箱に入った。
それはそうだ。なぜならそのゴミ箱は隣にあるのだから。
「入ったけど」
「じゃあ、明日もいい日になりますね。だって今日、ゴミ箱に空き缶投げて入っていい日になったし」
「屁理屈っていうんですよそれ」
「屁理屈でも理屈は理屈。何があったかは知らないっすけど、こういうちっちゃいことで、嫌なことを上書きしていきましょ」
そう言って図体のデカい男はバカみたいに満面の笑顔を見せた。
毒気が抜けていく。
「それもそうですね。きっと明日も、いい日になりますよね」
図体ばかりデカい男にしては良いことを言う。
気分がいいので、飲み物ぐらいは奢ってやってもいいかもしれない。
9/30/2023, 1:05:08 PM