たやは

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忘れたくても忘れられない

前に借りていたアパートは、駅に近く、商店街の一本裏にあり、生活環境はすごく良かった。何より家賃が安く、事後物件を疑うほどだった。始めてアパートの部屋に入居したときは、1DKの狭さを感じさせない広い窓から入る陽の光の暖かさを気にいって住むことにした。

引っ越してきて2ヶ月が経った頃、毎晩のように金縛りに会うようになった。
時間はいわゆる丑三つ時のの2時前後。布団の中で体が動かせなくなり、手も足も力が入らなくて、「どうしょう」、「どうしょう」と思っていると胸の当たりが急に重くなった。苦しさに目を開けると、黒い影に大きな口だけの顔がニカッと口を開けて胸の上に乗ってこちらを見ていたのだ。

「うあっ」

恐ろしさのあまり変な声が出て目を覚ますパターンが1週間続いた。もうアパートで寝るのことが無理だと思い、大家さんに引っ越すことを告げた。

「あら、あなたは口しか見えなかったのね。」

は?口だけって。それでも怖くて、怖くてここに住むのは無理だ。

「そう。あれは座敷童子なのに。怖いなら仕方ないわ。きっと上手く付き合える人がいるはすだから大丈夫。」

何を言っているのか理解できなかった。座敷童子は会うと幸運になると言われる妖怪の一種だ。でも、でも、自分があの部屋で見たのは、口しかない黒い影だ。座敷童子ではない絶対に!

こうして、生活環境に恵まれた場所に建つ格安なアパートを去ることにしたが、あの影のことは、忘れたくても忘れられない体験となってしまった。
それから少しして、あのアパートが火事にあったと聞いた。おのまま住み続けたら命の保証はなかったかもしれない。大家さんのことが気かかるが、関わりたくなかった。火事のニュースでは怪我人がいなかったのが救いだ。

火事の跡地は更地になり再びアパートが建つようだ。あの影はまだ住みつくのだろうか…。

10/17/2024, 7:12:13 PM