わをん

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『良いお年を』

病院の個室で窓辺を見ていた友人はこちらに気づくと久しぶり、と笑った。余命幾許もないと聞いていたのに元気そうだなとやっと返事をして手近な椅子に腰掛けたがよく見れば肌に色艶はなく、健康な人にはない臭気が漂い、点滴からはなにかしらが投与され続けている。鎮痛剤がよく効いているから今だけは元気なのだと友人はまた笑った。
友人は言う。腹を割いたものの手が付けられない状態だったのでなにもせずに綴じられたのだと。遺すことになる家族が心配だが、治療や入院期間自体は短くなりそうだから保険でなんとかなるだろうと。いまこうして俺と話せるのは神様仏様の粋な計らいなのだと。
「お前には痛みにのたうつ姿を見られたくなかったんだ」
いろいろと運がいいよなと、友人はまた笑う。悲しんでいるのは俺だけなのだろうか。涙が止まらない。
友人は言う。週が明ければもう新年なんだな。毎年一緒に行ってた初詣も新年会もたぶん欠席だ。みんなにもよろしく言ってくれ。あとは、そうだな。
「良いお年を」

1/1/2024, 3:24:26 AM