はた織

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 私の隣に図書ボランティアの人が来た。先ほども無言で私に近寄り、本棚からリストの資料を抜いて取って行った。今も黙って、リストの用紙を片手に本を探している。
 私は、あちらの動きを察して、私の目の前にある本棚に目当てのものがあると勘付いた。私は、配架の作業を止めて、こちらに来ますかと尋ねた。すると向こうは、突然ありがとうございますと私の目も合わせずに、棚の前に立ちはだかった。私の言葉を言い切る前に、相手から礼を言われてしまった。
 何だか、服を身にまとった肉の塊と話している気分だ。相手のエプロンの裾でひらりと私の存在を掻き消された不快さを覚えた。知性も教養も感じられない言動である。
 私は思わず、この人は知能か精神の障害でも抱えているのかと疑ってしまった。人権を傷つく思想で良くないと分かっているが、あまりにも人間味を感じられない。
 こんなにも多くの本に囲まれていながら、死んでいるように生きている人間がいるなんて哀れだ。無知を可視化させる書物を見ても、相手の目には紙に書かれた文字の具現化としか見えていないのだろう。
 そんな詰まらない人間も、もしかしたら実は蝶だったと設定付けさせたら面白いだろうよ。
 棚から本のページが抜け出して、蝶となり、そして人間になって、ひらりと夢中にさまよっているのかもしれない。そうだったら可愛げがあって良い。
 私は紙の文字にも夢中な蝶を見送った。
                 (250303 ひらり)

3/3/2025, 12:33:58 PM