sairo

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柔らかな朝の光に目を覚ます。
また今日が始まった。


同じ空。同じ場所。同じ人。
いつもと同じように動き、話す。

「おはよう」

にこりと笑みを浮かべる彼女は、今日も同じようにきらきらしている。
教室の隅。手元の本に視線を落としながら、意識は彼女達へと向けて。

同じやり取り。同じ笑顔。
変わらない日常。

他愛のない話に花を咲かせ。きゃらきゃらとした笑い声があがる。

一つ、欠伸を噛み殺し。
白紙の頁を一枚めくった。



柔らかな朝の日差しに目が醒める。
今日をまた繰り返す。

同じ空。同じ場所。同じ人。
何一つ変わらず、同じ時間を繰り返し。
けれど、

「あ。叔父様」

教室にいつもの人はなく。きらきらとした彼女だったものは、黒い男の足元に転がり溶けていく。

「その呼び方は止めろと言ったはずだ」

首を傾げ。暫し考える。
呪の元。同じ力。

「…御父様?」

眉間の皺が濃くなった。どうやらこれも違うらしい。
まあいいか、と視線を外し。崩れていく教室を見遣る。
どんなに手間をかけたとて、終わるのは一瞬だ。

「行くぞ」

視線を戻せば、すでに彼は背を向け歩き出して。
一度ゆるりと頭を振って、その背を追いかけ駆け出した。
教室を出て、階段を降り、昇降口を抜けて。

ぐにゃり、と視線が歪み、世界が反転する。



蝉時雨。刺すような強い日差し。
太陽はどこまでも遠く。留まらず、繰り返す事なく時が流れていく。

追いついて、空いていた右手を握る。振り解かれない事に、小さく笑みが浮かぶ。

「次からは溜め込まず、すぐに持ち帰る事だな」

呟かれた言葉に、頷きを一つ。
肚に溜め込んだ魂魄が音を立てた、気がした。


手を繋ぎ、歩き出す。
彼の左手を横目で見る。澱んで腐った、彼女の成れの果て。迷い子を吸収して大きくなって、呑み込めなかった魂魄。

空を見上げる。澄んだ青と刺すような日差し。
彼女が辿り着きたかったもの。焦がれて恋がれて、創り上げようとしていたもの。


夏が、来ていた。



20240703 『日差し』

7/3/2024, 10:04:22 PM