『大好きな君に』
ピンと姿勢の良い後ろ姿が印象的だ。もう直ぐ終わる。
「卒業式、最近は凝ってるね。ブラスバンド部の生演奏があるんだもん」
今日は次男の卒業式で、夫婦ともに高校まで来たのだが、感染症拡大予防のため、生徒一人に対して参列できる保護者も一人までと人数制限が設けられていた。カメラ撮影が苦手な妻は式の参列を遠慮してくれ、図書室に準備されたライブ配信を視聴した。
式後、最後のホームルーム参観のため合流した廊下で、
「ああ、私も生で見たかった。映像は飛ぶし、音声も聞き取りづらかった。在校生の子、送辞なんて言ってたの?」と笑いながらも不満をぶつけてくる。
「頑張ったよな」
「うん。本当にね」
次男は自身が目指す専門性のために、これまでの友人は一人もいない市外の高校を選んだ。始発に乗るため早朝に家を出て、遅く疲れて帰ってくる生活を三年間やり切った。親から見ても時間に追われ、高校生活を満喫しているように見えなかった。稀に愚痴っぽくなることもあったが、その苦労の割に弱音を吐くことが本当に少なかった。後に妻から聞いた話では、次男を苦しめていたのは人間関係だった。それもかなり複雑に入り組んでいて、逃げ場のない……だから、次男は最後まで逃げず、その場所で終わりが来るのをただひたすら待った。そして、今日、晴れて解放されるのだ。
「あいつ、すげーよな」
「うん」
「俺、あいつのこと尊敬する」
「うん」
「俺、あいつめっちゃ大好き」
「ふふ、当たり前でしょ、私たちの子なんだから」
時間をかけて作り上げられた箱庭からの脱出。
さあ、卒業祝いに何を贈ろうか。
3/4/2026, 3:01:23 PM