校門を入ってしばらく進むと、木の植え込みがずらっと並んでいる。一人の時は、そこにいくつかあるベンチに腰掛けて、ぼんやり過ごすのが好きだった。特に秋が良かった。中でも一本、ひときわ真っ赤に色付く木があった。その下のベンチによく座っている人がいた。
近くに図書館があるからか、そこで本を読んでいた。重そうな本をゆったりめくっている。
木漏れ日の中、その人の横顔がステキに見えて、離れたベンチからひそかに気にしていた。
だんだん秋が深まってくると、その人も薄手のシャツの上からコートを羽織るようになってきた。ある日、その人の隣に女性が座っていた。おしゃべりを楽しんでいるようだ。いつもの本は手にしているけれど、開かれてはいない。初めてその人の笑顔を見た。
二人の後ろの木は、ちょうど見事に色付いていた。風に揺れて、その紅い葉が、優しくはらはらと落ちていく。秋の日差しを受けて、ひときわ紅く美しかった。
「紅の記憶」
11/23/2025, 9:41:43 AM