どれだけ高く飛んだって誰もみてはいない。
なのにあの子はいつも人に囲まれて称賛を浴びている。にこにこと愛想のいい笑顔で、人懐っこい態度で、軽快な口調で相手を楽しませる言葉を吐く。
わかっていたことだ。いつもどんな状況でも愛嬌のある子が可愛がられるのだ。中途半端に役立つだけの道具より愛着のある宝物の方が大事にされる。
毎日それを思い出す。耐えて耐えて、耐えられなくなったときその輪を離れて雨の降る場所へ逃げた。
ほんの少しの善意とどうしようもなく膨らんだ嫉妬と嫌悪感を洗い流すために、逃げる。あの子をみていると劣等感に押しつぶされてしまう。私が私ではいられなくなる気がする。
ザアザアと降り続ける雨の中を歩く。ふくらはぎ中程の浅い小川に足を浸す。雨が打ちつける音が地面のときよりもっと水気を含んだものになる。それが雨だけのせいだったならこんなに苦しくはないのだろう。
息苦しい。水面に映って揺れる自分の顔の酷い様。こんなときですら声も出せず唇をかみ続けることしかできない。
そして、期待してしまっている。バカげた妄想だと笑ってしまえたらよかったのに、毎回そうなんだ。
優しいあの子が私を迎えにくる。傘もささずに濡れながら屋根のある場所へ連れていってくれる。
その優しさすら私を苦しめる毒にしかならないのに、私はその手を離せない。苦しいけど嬉しいのだ。誰にもみてもらえない私をあの子だけはみてくれるから。
だから、雨が好き
【題:空模様】
8/19/2024, 9:42:57 PM