『過ぎた日を想う』2023.10.06
あれはいつのことだったか。そう確か、高校の卒業式のあと日本一周の旅に飛び出した日のことだ。
スタートは京都駅。両親はこれも想い出だと言って送り出してくれた。毎日その日に食べた食事と今、どこにいるかを連絡することを条件に。
それ自体は楽しかった。両親に心配をかけたくなかったし、各地の美味しいものを自慢するもの気分がよかった。
高校を卒業したばかりの若者が、一人で旅をしているといろんな人が優しくしてくれた。ごはんをごちそうしてくれたり、これで美味しいものでも食べなさいとお金を渡してくれることもあった。時には警察に職務質問をされることもあったが、それもいい想い出だ。
しかし、いい想い出だけとはかぎらない。
ある県のある灯台にきたときだった。そこは夕日が有名で、せっかくだから拝んでいこうかと立ち寄ったときだった。
悲鳴となにか質量のあるものが落ちる音が聞こえたのだ。そこには一組の家族と警察官がいた。話を聞くとどうやら人が落ちたらしい。
警察はそうだとは言わなかったが、察してしまった。事情聴取を受けたあとはキャンプ場に向かったのだ。
その時のことは、今の今まで忘れていた。番組のロケで今はその灯台にいる。時刻もあの時と同じ。
灯台から下を見下ろす。高い。ここから落ちたらひとたまりもないだろう。
脳裏には並べられた靴がよぎる。当たり前だが、今はない。
無意識に手を合わせてしまった。他のメンバーがどうしたのかと聞いてくるので、なんでもないとごまかした。
10/6/2023, 12:26:01 PM