はた織

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 ああと得も言われぬ感情が、私の中で込み上がった。
 ダイアログレイディオ・イン・ザ・ダークに登場した御陣乗太鼓保存会の人が、話してくれた。朝起きたら、いつも変わらない風景を大事にしてほしいと願いを込めて言った。
 能登半島地震で、海底は隆起し、大雨で山は土砂崩れを起こした。天災により日々の日常や風景を壊されて、心までも崩れただろう。だが、全てを失ったわけではない。能登の人々は、崩れ落ちたものの中から思い出を掬い上げて、心の拠り所にしていたのだろう。
 変わらないものに自分の帰るべき場所と意味を与える。これは人間の生きる術のひとつだ。
 最近は、長年建てられた建築物が無闇に解体されている。しかも建てたその国民ではなく、移民や難民の人々に解体を任せている。
 現代の人々は、歴史を積み重ねた建物の敬意もなければ、時間への敬意もない。当然、歴史の流れに逆らって変わらずにいるものの存在もすぐに否定できる。急速な時代の変化に置いていかれた人間の心の拠り所なんて容赦なく踏み潰せるのだ。
 変化に必死な人間ほど、変わらないものの存在を恐れてしまう。では、その人間の身に天災が起これば、どうなるのか。天変地異に歓喜するのか、それとも堕落するのか。歓喜して昇天しても良いだろう。堕落して悲観して良いだろう。はたまた、崩壊された風景の中で、変わらずに咲き続ける花や流れ続ける雲、伸び続ける草木を見出して、ああ生きてて良かったなと思ってくれたら、もっと良いだろうよ。
                  (250309 嗚呼)

3/9/2025, 12:47:00 PM