天津

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日の出

幼い頃の自分にとって、日の出は野暮なものだった。
うっかり早く目覚めた朝の、時が止まったような静寂の中で、眠る家族の薄い呼吸を聞きながらそっと窓際に寄ると、空気はまだ青く冷え冷えとしていた。誰も何も動かない死んだような風景に、自分だけが動いている不思議さ。借りぐらしの小人になったような、秩序や監視に縛られない全能感を覚えた。やがて、冷え切った窓外のごみごみとしたまちの果てが明るんでくる。すると、それまで身を包んでいた静謐な自分だけの時空間が、熱された硝子のように溶けていく。街がゆっくりと目を開ける。まちのあちこちで草木が頭をもたげ、歯車が徐ろに回りだすような音を、皮膚に感じる。音が満ちていく。一人でなくなってしまう。そうして、特別な時間の終わりをどうしようもなく悟るのだ。
幼い頃の自分は、日の出を残念に感じていた。しかし、残念に感じつつも、その残念さを味わうことができていたように思う。今はあんなにも純粋に感じることはできない。夜中から起きたまま迎える日の出を繰り返しすり減った感性は、もう底をついて取り戻せない。
2023/01/04

1/3/2023, 6:45:18 PM