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夏草


アスファルトからの照り返しでジリジリと肌が焼けるのを感じる。明日からはもう9月なのにまだまだ夏の終わりが見えない。
じんわりと背中に滲む汗に陽射しを受けて、右手をかざして空を見上げれば青々とした晴れやかな青空が見えた。

右手に握ったボロボロの退職届は2年前に書いたもので、何度も何度も折れそうな心を現しているかのように白い封筒には薄汚れた跡がついていた。

夏の終わりが来る頃には新しい人生が始まる。

荒地になった土地に生えた雑草ばかりだった人生に、今日終わりの鐘を鳴らすのだ。

長い人生で15年なんて一瞬に過ぎない
豊かさばかり望んでいても、田畑も長い人生で見れば休閑期だって必要だ。思ったよりも長い休憩をしてしまったから雑草だらけになってしまったけれど。

暑いなぁ…

思わず言葉が漏れる。
本当に長い暑い日々だったから。

秋に向けてまた草を刈り上げ、綺麗にしてから種を蒔く。

今度は何が出来るだろう。
長めの休みは土にきっと栄養を溜め込んだ。
だからきっと楽しいものが出来るはず。
楽しいものが出来るように、今度は手厚くしていこう。

燦々と燃やしつくさんとばかりに照らし続けるお日様が、必要とされる大切な要素であるように人生に不必要なものはない。過度に与えられすぎるのは勘弁してほしいけど。

必ず糧になる、なんて詭弁かな。
信じられるかな。
信じて糧にしなくてはもったいない。

私は夏草。
この陽射しの下でも枯れなかった夏草。
たとえ炎天下でも、雨が降らなくても、最後は刈られることになっても、それでもいつかどこかで青々と誇らしげに覆い茂る場所を見つけてみせる。

ここではまだ青芒でも、いつか枯れたら茅となり人を支えるそんな人になりたい。

私は青草。
まだまだ生命溢れる力に満ちている。


8/28/2025, 11:37:45 PM