「君といる時間は替えのきかない宝物だった!」
フェンスの向こう、彼は清々しそうな顔でそう声を上げた。それは狂気的であり、なおかつ青春じみている。晴天は祝福も批判もせず、ただ黙ってこの光景を見下ろしていた。
告白などとうの昔に済んでいた。毎度あきれて笑うような熱量の愛も十分すぎるほど受け取った。だというのに。
本当にばかな人だ。きっとその言葉を届けたい相手がどこにいるのかわからないから、どこにでも届きそうなこの場所で叫んでいるのだろう。残念ながら自分はその視線の先、天にも星にもいないというのに。自由で、でも以前よりずっと小さく見えるその背を見つめた。
彼の中で自分が占める割合は、自分が想像しているよりもずっと大きかったらしい。それは逆も然り。
まさに運命と呼ぶにふさわしい出会いだったのだろう。だからこそこんなことになってしまったのだ。
もしくは、未だこうして自分がこの人のそばに居るからだろうか。いるはずのない自分の存在が何かしら精神に影響を与えていると言われても否定はできない。
ただ、今更離れてやるつもりもないのだ。
これを呪いだ祟りだと思うのなら、どうぞそう呼べばいい。恋情なんて皆等しく狂気であるのだ。でなければ世界の中心で愛を叫ぼうだなんて思いつくはずもない。
心残りなんてなさそうに、未来に希望を持ちながら宙に踏み出す彼の背へと透ける手を伸ばして、すり抜けたフェンスの先で抱きしめた。
「やっと、やっぱり、また会えた」
目が合って、見開いて、涙は上に落ちていく。誰にも邪魔などされようのない、世界一幸福な再会の時だった。
そうして二人、地上に降り立ったのなら。自分たちだけが聞けるその声で、待ち望んだ「愛してる」でも人目をはばからず笑って言い合おうか。
【愛を叫ぶ】
5/11/2023, 5:11:17 PM