『故人図書館に、ご来館ありがとうございました。』
「相談乗ってくれて、ありがとう。司書さん。」
『いえ。貴方様の為になる事が、至上の喜びですので。』
「そうだ。これ、どうぞ。」
『こちらは…?』
「紅茶だよ。最近のマイムーブなんだ。だから司書さんにもお裾分け。」
『それはそれは、ありがとうございます。』
「それじゃあ、また縁があったら。」
『貴方様の物語、お待ちしております。』
テーブルの上に、小さな紅茶の紙袋を置いた。自然と出る溜め息。最近の子は、どうやら死にたがりが多いらしい。
『死ぬなら、勝手に死んで欲しいですねー。』
壁にかかった鏡に目をやる。そこには、無愛想な顔が映る。慌てて、笑顔を作る。しかし、気力は沸かない。それ程までに、疲れが溜まっているのだ。
故人図書館。ここは、犯罪者の私に神様がくれたものだ。ここでは、色々な人間の過去が覗ける、不思議な本が置いてある。私はその本を管理し、人間の悩みを解決へと導いていく。…まぁ、死へと誘っているだけだが。それでも、半数は生き延びようとしている。そしてまた悩む。それのループだ。馬鹿馬鹿しい。疲れた。面倒くさい。
『でもまぁ、神様には抗えないんですけどね。』
あるだけの力を振り絞って、紅茶を淹れる。すぐに香りが鼻につく。私は、カップに紅茶を注ぎ、少し飲む。そして、シュガーポットから角砂糖を三つ取り出し、紅茶に投げ入れた。また少し飲む。
『やっと、飲める味になりましたよ。』
周りを見ると、本しか目に映らない。見慣れた風景。でも、何だか今日は、嫌いじゃない。時計が、一時を告げる。束の間の休息も、もう終わり。すぐに悩める人間がやって来る。私は、頬を少し叩いた。よし、今日も頑張りますかね。
『ようこそ。故人図書館へ。本日はどういったご要件でしょうか?』
10/8/2024, 3:36:01 PM